元自衛官の憂い The third
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01062105 | 平和ボケ 「戦死」しない自衛官たち |
訓練でのことを思い出すと「戦死」や「負傷」という想定がありました。
敵陣に突撃する際、匍匐で近づき敵陣との距離が縮まると、班長の「前へ!」の号令の下、一斉に立ち上がり突進します。突撃の際には銃を一斉射撃します。
訓練では各人が決められたルートを走り抜けますが、そのルート上に紙に「戦死」「○○部負傷、その場で止まる」などと書かれて、この想定で各人は対応します。
各教育部隊での訓練では助教が「頭が高い! 戦死!」と、篠竹でヘルメットを叩かれ、その場で仰向けになり銃を腹に立てさせられました。
訓練の段階を追って、より実戦的な訓練となり、最終的には空砲を使い撃ちまくりますが、空砲とはいえ侮れません。
銃口から30cm程度離し、週刊のマンガ本くらいの厚さなら粉微塵になります。
日本政府、官僚、自衛隊高級幹部、軍事ジャーナリストそして日本国民に広まる「平和ボケ」について日中戦争の可能性を前回お話しました。
自衛隊のタカ派の元高級幹部を持て囃すのは困ったものですが、1佐以上になると高級官僚と同じで官僚主義になりがちなのは自衛隊といえども他の官公庁と同じです。困った問題ですが、こうした流れから生まれてしまうのが武器調達などの矛盾です。
そんな自衛隊が抱える問題の一つをお話します。
軍隊ではないと豪語する日本政府ですが、軍隊が戦えば犠牲が出るのは当然のことです。「軍隊ではない」と政府が何度釈明しても、自衛隊であってもまったく例外ではありません。
しかし、訓練や演習で「戦死」や「負傷」は想定されていますが、自衛隊は戦闘での死傷を想定していないという恐ろしい現実があります。
ちょっとオタク系のマニアにはご理解いただけると思いますが、自衛隊の装備の中で救急品袋がありますが、ファーストエイド・キットはありません。
通常の実戦を経験してきた軍との大きな違いです。
死傷を想定していないことが意味するものは、実戦を想定した準備をしていないということになります。
10式戦車がどれほど世界先端の戦車であろうと、イージス艦が弾道ミサイルを撃ち落せても、ステルス戦闘機を買い揃えようとも実戦で実力を発揮することはできません。
旧軍がそうであったように、人命を軽視する軍隊は将兵から信頼を失い、士気は低下どころか消滅します。精強な軍隊であるほど、人命を重視する傾向にあります。
自衛隊(陸自)では震災後に、ファースト・エイド・キットの整備に着手しました。
これまでは包帯を2本入れる救急品袋がありました。包帯以外ではモスカートが入るかどうか、といった程度の容量です。残念ながら旧軍レベルのものです。
ファースト・エイド・キットの整備に着手したのですから大きな進歩とも言えますが、陸自が揃えようとしているファースト・エイド・キットに問題があります。
防衛省が公開している仕様では、PKOを想定した国外用と国内用の二種類があります。
海外用:砂漠迷彩の救急品袋、救急包帯、止血帯、人工呼吸用シート、手袋、ハサミ、止血剤、チェストシール
国内用:救急品袋(白)、救急包帯、止血帯
国内用と海外用になぜ差があるのか。
〝まともな〟神経をしていれば、海外では風土病やその土地で流行する感染症、毒を持つ生き物に対応した血清などが入っていれば納得もできますが、国内用に止血剤やチェストシールが入っていない理由が理解できません。
止血剤はその名の通りで、チェストシールは創傷部に貼り付け閉塞するため、場所を問わず必要なものです。
国内用と海外用を比べると、国内用は応急処置に必要な止血、呼吸確保などが省略されているのです。
これでは、自衛官は国内で戦闘中に傷を負わないと言っているのと同じことになります。国内で戦闘中にケガをしないなんて…ご当地ヒーローのようです。
自衛隊(陸自)は、この差をどう説明したのか…。これまたぶっ飛びものでした。
「国内における隊員負傷後、野戦病院などに後送されるまでに必要な応急処置を、医学的知識がなく、判断力や体力が低下した負傷者自らが実施することを踏まえ、救命上、絶対不可欠なものに限定して選定した」
「戦傷者は自分でなんとかすしろ!」としか私には聞こえないのですが、皆さんはこの回答をどう受け止めますか?
応急処置はケガを負った本人が自分でするとは限りません。
戦闘では手足を吹き飛ばされたりして意識を失うことも当然で、自分で応急処置するなどできない場合の方がはるかに多いです。
近くにいる仲間(戦友)同士で互いに処置することになり、他国の軍では応急処置の教育が熱心に行われています。
国内ですから、「病院」があるとでも言いたいのでしょうが、戦場となった国土で病院がまともに機能しているとは考えられません。
自衛隊が昨今声高に訴える島嶼防衛で、離島の直近に病院などあるはずもなく現実離れした考えが自衛隊を覆っているとしか言えません。
戦場でケガを負えば、素早い止血と呼吸の確保が第一です。素早く的確な処置をすれば、命どころか手足を失うことも低減させることが可能になります。療養期間も短縮でき、再び前線に戻ることも可能になります。
応急処置をせず容態を悪化させ、後方の設備の整った病院に担ぎ込んでもケガが早期に治癒できるものではありません。
陸自の回答は、隊員は日本のご当地ヒーローで、病院に運び込めば生き返ると言っているのと同じではないでしょうか。
大震災で自衛隊の活躍に多くの国民が賞賛を惜しみませんでした。
でも、考えてもみてください。あの自衛隊の活躍は自衛隊というマンパワーに依存したものであり、それを補うものが存在していないという証明でした。その事実を糊塗するために、国民の賞賛の声だけを取り上げたという疑いさえ持たれます。
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