元自衛官の憂い The third
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08011105 | [PR] |
01151007 | 軽挙妄動 |
開戦に関する条約をご存知でしょうか。
1907年10月に署名された宣戦布告にかんする条約です。全8条からなり、開戦に先立ち相手国に宣戦布告を行うことを定めものと、中立国に対し戦争状態の通告を行うことを定めたものからなっています。
旧帝国海軍の真珠湾攻撃が、これに反するとしてアメリカ合衆国政府は一大プロパガンダを展開し国民を戦争へと導きました。アメリカ政府は真珠湾攻撃を事前に察知していたようですが、肝心かなめの問題は宣戦布告なき開戦だったということです。山本五十六連合艦隊司令長官が、この事実を知り真っ青になったのは国際法を無視した形になってしまったことからです。
ネットニュースの『読売新聞』の以下の記事がありました。
尖閣侵入なら、海自が海上警備行動…中国に通告
政府が中国軍艦による尖閣諸島(沖縄県石垣市)の領海(周囲約22キロ)への侵入に備え、新たな対処方針を決めていたことが分かった。
国際法に基づく無害通航を認めず、海上警備行動を発令して自衛隊の艦船を派遣し、中国軍艦に速やかな退去を促す。新方針は、昨年11月の中国軍艦による尖閣諸島周辺の航行後、外交ルートを通じ中国政府に通告された。
国連海洋法条約は平和や安全、秩序を脅かさない限り、軍艦であっても他国の領海を自由に通航できる無害通航権を定めている。ただ、中国は尖閣諸島の領有権を主張しているため、無害通航を求める可能性は低いと日本政府はみている。「中国が『無害通航だ』と主張することは、日本の尖閣諸島領有権を認めることと同義になる」(外務省幹部)ためだ。(引用 http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160111-00050106-yom-pol)
日本政府の対応として強く出ることを意味していますが、国際法上問題が無いのか、国際法を精査した上で示した姿勢なのかなど心配になってきます。
国際海洋法条約では、自国領海での無害でない通航を防止するため必要な措置をとることができると(国連海洋法第25条)されています。この規定に基づけば、日本政府の通告には正当性があると判断できます。
さらに、他国の公船(海上警察の船舶、軍艦)に対し、国家は自国領海の通航に係る自国法令の遵守を要請するとともに、要請が無視された場合、領海から直ちに退去することを要求できる(国連海洋法第30条)と定めています。
これで日本政府の通告に問題が無いことがわかります。しかし、ここからが問題です。
無害でない通航を防止するために執ることのできる措置、軍艦が領海から退去要求に従わない場合に執れる措置などの具体的内容を規定している国際法が存在していません。
無害でない活動を行う商船に対しては、質問、強制停船、臨検、拿捕、強制退去等ができますが、軍艦に対しては活動の中止要求、領海外への退去要求は可能ですが逮捕、臨検等の措置を認められていません。
となると、日本政府の通告は何の意味があるのかという疑問が浮かんできます。
一般には日本の領海侵犯対処は、公船や民間船舶には海保、水産庁が対処し、外国軍艦に対しては海自が対応することとされており、これまでと何ら変わらないことを改めて通告したことになります。
筆者がもっとも危険だと感じたのは、外務省幹部の言葉として「中国が『無害通航だ』と主張することは、日本の尖閣諸島領有権を認めることと同義になる」としていことです。
でも、中国側が自分の領土・領海だと入り込んできたら、海自はどう対応するのでしょうか?
これで、今回の通告は中国海軍艦艇を寄せ付けないだけの効果しかないということがわかります。
こうした情報を政治利用しているとは言いませんが、こうした情報の尻馬に乗って喜ぶことは浅薄過ぎる行動です。
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