元自衛官の憂い The third
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11031932 | 領空侵犯機を撃墜できるのか |
今年の3月だったでしょうか、トルコ空軍がシリア空軍のMiG-23戦闘機を撃墜したと明らかになりました。
トルコはシリアと国境を接しており、領空に接近する2機のシリア空軍機を発見。トルコ空軍F-16戦闘機が緊急発進し4回にわたって警告しますが、うち1機が領空に侵入したたF-16がミサイルでシリア空軍戦闘機を撃墜しました。
日本(空自)では、緊急発進を以下のような手順で実施します。
①レーダーサイトが防空識別圏に接近する識別不明の航空機を探知
②提出された飛行計画と照合
③飛行計画が提出されていない航空機であった場合、レーダーサイトから当該航空機に対し国際緊急周波数で領空に接近していることを通告
④戦闘機に発進を下命(目視確認の実施)
⑤当該航空機を目視確認後、緊急発進した空自戦闘機は無線により領空接近を通告
⑥当該航空機が進路変更しない場合、領空侵犯を警告し誘導を実施(強制着陸)
⑦警告射撃を実施
⑧自機もしくは僚機が攻撃を受けた場合のみ自衛戦闘を実施可能
おわかりのように、指示に従わない航空機に対し攻撃はできないのです。
自衛隊法84条には「着陸」「退去」以外の選択肢はありません。
現行では、爆撃機であっても領空を侵犯しても撃墜はできません。
日本の現状はと言えば、日本海から東京方面に飛行する某国の爆撃機が日本の領空を侵犯。東京上空で爆弾倉の扉を開けた時点で攻撃できるのか、それとも爆弾を投下を確認した時点で攻撃できるのかと論議しています。
現実離れしていると言いますか、現実逃避した論議で国防を全うしようと言うのですから恐れ入ります。
トルコ空軍機がシリア空軍機を撃墜し、国際社会の反応はどうであったか…無反応でした。
トルコは領空侵犯された時点でトルコ領内であり、警告に従わない場合、軍用機であれば撃墜は正当防衛行動と解釈されるのです。
日本であっても、領空(海岸線から12海里=約22km)に入られた場合、ミグ31では最大巡航速度マッハ2.35と言われており、マッハ1で秒速300mですからマッハ2.35だと秒速約700m。31秒で日本の上空に到達。
佐渡島から東京上空まで約300km。約8分で東京上空に到達します。8分が長いのか短いのか、それは領空侵犯され日本を攻撃しようとする爆撃機・戦闘機が東京上空に現れた際に、当事者となる空自隊員たちが感じることです。
尖閣諸島では中国軍機と中国官用機、日本海等ではロシア軍機に対し緊急発進回数が増えていますが、2012年12月13日、中国国家海洋局のY-12が日本の領空を侵犯しました。
この時、空自による発見が遅れ緊急発進が間に合いませんでしたが、この領空侵犯以降、空自は早期警戒機を投入し領空侵犯対処に遅滞ないよう万全の態勢を取っています。
領空侵犯機に対し強制着陸を命じることは容易ではありません。ロデオのブル・ライディング(暴れ牛)で、暴れる牛の首に縄をかけて連れ歩くことなど不可能なのと同じです。
亡命を求めでもしない限り、着陸の指示に従う敵対する国家の軍用機が従うことは絶対にあり得ません。
領空侵犯対処は、最終的に「撃墜」という裏書がない限り、相手になめられるのはわかりきったことです。
北朝鮮による日本人拉致問題が解決しないことでわかるように、侵略行為である拉致を平然と認め、それでもなお拉致された日本人の調査さえ進められていないのは、日本人を拉致しても武力行使されないのはわかりきっているので、「交渉」で解決するというわけのわからないことになっているのです。
昭和44年、当時の佐藤栄作総理大臣が国会で「侵入機に対してはまず警告を与えるのがほぼ慣習法化している。その結果、領空侵犯を悪天候や器材の故障などで不可抗力者であることが判明した場合は別にして、侵入機が敵性を持っていると信ずべき十分な理由がある場合は、領空外への退去、指定する地点への着陸等を命ずることができ、侵入機はこれに従わない場合、領空内ではこれを撃墜することもできる」と述べています。
しかし、昭和48年になると一転します。
「武器を使用することは外国と異なり、(自衛隊は)緊急避難及び正当防衛の場合にしか使用できないことになっている」と当時の防衛局長が国会で答弁しました。
総理大臣の見解を、一介の官僚が引っくり返すのですから凄ワザです。この官僚の名は「久保卓也」です。
この答弁が現在の解釈として定着しており、強制着陸させるための危害射撃すらできないのであり、首都上空に敵性軍用機が飛来して爆弾倉を開けたか爆弾を投下したら危害射撃が可能かどうかという現実とはかけ離れた論争が行われているのです。
こうした現実とはかけ離れた論争だけかというとそうではありません。
昭和55年に佐々淳行参事官(当時)が、「内訓にある正当防衛、緊急避難は、危害許容要件であって、武器使用の法的根拠は84条である」と答弁しました。佐々参事官は、着陸を強制するために武器を使用することは可能であるとの判断を示したのです。
しかし、裁判官・検察官・弁護士いわゆる法曹界から批判を浴びました。
法曹界の見解は、「84条の職務規定を拡大解釈して武器使用権限も含めているとの解釈では裁判所は納得できない」というのです。
侵略を受けるかどうかの瀬戸際で裁判所を持ち出すのですから、平和ボケの極みです。
さらに、「権限規定がないことは、自衛隊機には領空侵犯措置の任務は付与するが、侵犯機がこれに応じない場合でも、武器を使用してまで領空から退去あるいは強制着陸させるべき強制的権限を与えないという国家意思を解さざるを得ない」だそうです。
信じられますか?
これが、今でも通用しているのです。
戦争という国家間の闘争に裁判所?
自衛官が最前線で敵性の兵士が銃を構えて発砲される前に危害射撃をしたら、殺人罪にでもなるようです。
これでは日本は主権国家ではないかのようです。
領空侵犯機を撃墜できるかどうかではなく、主権国家として撃墜する要件が揃えば、即座に撃墜できるよう体制を整えることが必要なのです。それこそが、主権国家なのです。
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