元自衛官の憂い The third
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07240025 | [PR] |
12050854 | シリア情勢 |
ヨーロッパ列強の都合で現在の混沌とした中東情勢を生んでしまいましたが、なぜロシアはシリアにこだわるのかをお話します。
アラブ世界は複雑な世界です。世界屈指の原油・天然ガスの埋蔵量と産出量を誇り、その莫大な利益は公平には分配されていません。
アラブ世界のイスラム教徒は、多数派であるスンナ派が少数派であるシーア派を支配し、天然資源の利益はスンナ派が独占しているとも言える状態です。
そうした不安定材料の上に、世界の大動脈であるスエズ運河があり、反米一辺倒のイランの存在、アラブ世界唯一の核保有国であるイスラエルの存在など、不安定材料には事欠かないのがアラブ世界なのです。
そんな世界に突然起きたのが、「アラブの春」と呼ばれる発端となった「ジャスミン革命」です。
チュニジアで起きたジャスミン革命が、アラブ世界に波紋を広げて行きますが、背景にはソーシャルネットワークが情報伝達が瞬時可能となり、革命の波紋がアラブ世界に大きく広がって行きました。
ただ、過酷な環境下で生きる人々の繋がりであるイスラム教の世界に、ソーシャルネットワークにより欧米諸国の価値観を持ち込むのは決して妥当な選択とは言えず、そのほころびが革命が成立した国家が未だに安定しない理由だと筆者は考えています。
あくまでも推測ですが、「自由にものも言えない社会」に嫌気がさして革命に走ったのでしょう。欧米の支援も期待していたのかもしれません。
しかし、現実はとても厳しいものになっています。
その結果がシリア情勢です。
シリアでは当初は単純な反政府運動でした。アサド政権軍と反政府勢力の民兵との衝突でした。それがやがて、ジハード主義のアル=ヌスラ戦線(アルカーイダ下部組織)とシリア北部のクルド人勢力との衝突を呼び、現在では反政府政権内でISやアル=ヌスラ戦線との戦闘、ペシュメルガ(イラク領クルッディスタン自治政府軍事組織)の参戦、そこに大国の介入です。アメリカはIS掃討とアサド政権打倒を目的に反政府勢力を支援しています。
厄介この上ないのはシリア内戦なのです。
そこへロシアが外交カードに利用しようと乗り出してきたのですから、内戦状態と言われるシリアですが誰が何のために戦争しているのかさえわからない状態なのです。
「ロシアが外交カードに利用」というと、ロシアに非があるかのように聞こえますが、これを生んだのがアメリカ・オバマ政権の腰砕けの措置です。
シリアの内戦状態に介入してくると見られていたアメリカは、当初、イラク・アフガニスタンからの出口戦略が見いだせず介入には消極的でした。その消極的姿勢をごまかしたのが、オバマ大統領による“レッドライン”発言です。
オバマ大統領は「化学兵器使用はレッドライン」だと発言し、アメリカが介入するかのように見られました。2013年に入り、その化学兵器が実際にシリアで使われてしまったのです。国連の査察チームによる、化学兵器の使用が確認されますが、それが政府側・反体制側のどちらが使用したかまでは断定できませんでした。
これに呼応して地中海にアメリカ・イギリス・フランスの艦隊が展開し、介入が間近に迫っていると誰もが確信しました。
ところが、介入直前と思われた時、イギリス政府が攻撃(介入)の是非を議会の審議にかけるとの方針が表明されました。これは制度上必要なものではありません。イギリスは暗に介入に不参加を表明したと見られます。議会は攻撃参加を否決。イギリスはこれにより介入に不参加となり、イギリスに倣うようにオバマ大統領もまた議会に不必要な承認を求めました。
そこへ突然現れたのがロシアでした。
シリアへの介入に消極的なロシアは、シリアの化学兵器を国際管理下に移し、シリアを化学兵器禁止条約(CWC)に加盟させると提案しました。ロシアの仲介でシリアはCWCに加盟を果たし、シリアへの欧米諸国の介入は完全に空振りとなったのです。ロシアが中東問題で大きく影響力を持つようなった瞬間です。
大国の事情がシリアの混沌を生んだと見るのが妥当な見解ではないでしょうか。
アメリカはイラク・アフガニスタンの泥沼からようやく抜け出そうとしており、危機的財政から軍事行動は消極的にならざるを得ず、シリア情勢が単なる反政府運動から出口の無い内戦に変化していたの腰砕けの対応を呼び、ロシアがそこに欧米に取って代わっただけなのがシリア情勢だと筆者は解釈しています。
とかくロシアの存在は「悪」で欧米は「善」だと受け取りがちですが、それは大きな間違いです。そうした色眼鏡で見ないようにしないと、この国の首相の偏重な政策に何ら疑問も差し挟めない状態となってしまいます。
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